【マンションポエムの裏側】あのキャッチコピーが出来るまでを解説

“マンションポエム”とは?

写真家の大山顕氏が提唱した概念で、主に都市部の高価格帯マンションの広告に登場する『詩的キャッチコピー』のことです。

たとえば

 静謐に住まう、天空の邸宅 

とか

都心を愉悦する大人たちの、至高の邸

のような、マンションの折込チラシやweb広告上に踊る、独自の様式美をまとった宣伝文句を言い表すワードとして認識されていると思います。

ちなみに上記の2つは、私が適当につくったものですが、みなさんこのキャッチコピーを見て、マンションを買いたくなりましたか?

もちろん私が適当に作ったものと比較はできませんが、実際マンションポエムは大量に生み出され、広告として世に出て、そしてマンションは売れていました。

私自身、このマンションポエムに対して以前より様々な疑問を抱いていました。いったいどこの誰が考えているのか、なぜこの形態になったのか、世の中の人々はこのコピーに共感しているのか、 そして実際このコピーはどの程度販売に寄与しているのか。

そしてついに、私のこの疑問を解決する機会が訪れたのです。

ついに“マンションポエム”創造の現場へ

私は今までわりと長いこと広告制作に携わってきましたが、不思議と不動産関連の仕事をする機会がありませんでした。しかし、先日とうとう新築マンションの販売に係るプロモーションの仕事がまわってきたのです。

それは、とある地方都市に新しく建つ某不動産会社のマンションのプロモーションで、私はプランナーとして広告代理店と一緒にプレゼンを行い、無事受託することができました。

そして、実際に制作を進めていくにつれ、“マンションポエム”への様々な疑問が解き明かされていくこととなります。

チームから発せられる、マンションへのパッション

不動産広告、特に大型マンションの広告というのは非常に専門性を要する分野で、実際のところ対応できる広告代理店というものが限られています。

私はその「不動産広告のプロフェッショナル」の一角である某広告代理店とチームを組みこのプロジェクトに当たることになりました。当然、他のメンバーも「不動産広告プロ」で構成されており、デザイナーさんやらマーケターさんもマンション広告歴10年以上の猛者ばかりがそろっています。

ここで、チームミーティングをして感じたのは、彼ら全員が「マンションを売る事に対しての熱量が尋常ではない」ということです。彼らは不動産広告をメインで行っているので、当然と言えば当然なのでしょうが、同一エリア内の競合物件情報、経済誌の最新情報、マーケットのトレンドなど、どのメンバーも一定水準以上の知識を有し、かつそれらをどのように販売に結び付けていくかを様々な角度からかなりの深度で議論しあうのです。

広告においての一番の正義は「売れること」で、逆に一番の悪は「売れないこと」です。そして売れないとどうなるか、次の仕事がこなくなります。不動産専門でやっていると、クライアントの数は限られているため次の仕事が来なくなると、どんどん得意先が減っていきます。

そして、そうならないための必死さが、とんでもない熱量として発露されているのでしょう。

「エリア訴求」と「スペック訴求」

「エリア訴求」と「スペック訴求」という専門ワードがあります。いずれも不動産物件(ここでは新築マンション)の広告表現の方向性を指し、

「エリア訴求」は、その物件の立地、つまり『その物件に暮らすことで享受できる、周辺の施設やサービスに起因する様々なメリット』を伝えること。

「スペック訴求」は、その物件自体の価値、つまり『その物件に暮らすことで享受できる、物件の間取りや建築構造、共用部のサービスなどに起因する様々なメリット』を伝えること。

になります。

マンションの広告表現は、大きくこの2つを軸として「価格帯」や「ターゲット」に合わせてつくられます。

単純な話として「いい立地」で「いい内容(価格・スペック)」の物件であれば、広告をバンバン打たなくても勝手に売れてしまいます。

問題は「エリア」・「スペック」の特色が薄い場合、そして同エリアの競合物件の存在です。

これが「ポエム化」の始まりと言えます。

マンションポエムは『既存の価値の最大化』を図るもの

実際一緒に仕事をして分かったのは、マンションのクリエイティブ(デザインやキービジュアルなど)を担当する、デザイナーさんやコピーライターさんは、非常に優秀な方々です。

しかし、上記の「マンションの特筆すべき訴求ポイントが薄い」という状況、そして「エリア内の競合物件の存在」が、彼らの熱量(パッション)と化学反応を起こしポエム誕生へと向かっていきます。

そしてなにより、クライアントの存在がそれをどんどん後押ししていきます。かれらにとってキャッチコピーは「セールスの際に他社との差別化を伝えながら、マンション購入へ導くためのきっかけ」の役割を持ちます。

つまり、セールスツールとして「他物件には無い独自の魅力を凝縮したパワーワード」が必要となるのです。

そこで、そのマンションが少しでも持っている訴求ポイントを最大限に伝えるため、つまり『既存の価値の最大化』 を図るべく「強い」「引き付ける」「インパクトのある」ワードがコピーの候補として上がり、そこからあの詩的な文章が紡ぎだされていくという流れになります。

そのため、明らかにコピーとして微妙な表現であったりしても、コミュニケーションが破綻するギリギリまで『どれだけ物件価値を表現できるか』を優先するため、「コピーを揶揄する声」は意図的に無視していると言えます。

マンションポエムは販売に寄与するのか

私が一番知りたかったのが、これで売れるのか?という疑問です。

ようやくその疑問が解決できると、不動産会社が収集している購入者や検討者からの様々なアンケート結果を見たのですが、そもそも質問として『購入動機:コピーを見たから』という項目があるアンケートを見たことがありません。また、代理店が独自に作成するアンケートの設問にもコピーについての項目を入れてません。意図的なものでしょう。

ですので、マンションポエムがどの程度販売に寄与しているかは、私が収集できる情報の中では、裏付けが無くはっきりとした答えがありません…。

でも一つ言えるのは、「マンションポエム」なんていうワードで揶揄されているコピーも、マンション購入を検討している人々に、検討期間中にはそれが当たり前のように受け入れているということです。

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