思い出すだけで恐ろしい体験。イベント直前に工場が火事に、さらにとんでもない事が…

※下記コラムにはフィクションが含まれております。

「納品物が全部燃えました…」悪夢は1本の電話から始まった。

今から数年前、とある大型の工業系展示会のブース施工を担当していた時のことです。図面も完成し、展示物を設置するための治具と呼ばれるパーツを工場へ発注し、翌日にクライアントチェックを控えた前日に悪夢は始りました。

造作のデザインを依頼している、施工会社の担当者からアサイチで

「治具を作っていた工場が火事になって、明日チェックしてもらう納品物が全部燃えました…」

と報告が来たのです。

「いやいやいや、そーゆーのはいいから。間に合わないんだったら俺が代理店とクライアントに頭さげるからさ、もうちょ」

「本当です。ヤ○ーのトップページを見て下さい。」

食い気味でかぶせてきたため、怪訝にスマホで○フーを開くと、そこには写真付きで

『東京都△□区の工場で昨夜未明に火災。工場が全焼』

の文字が。…これはまずい。非常にまずい。

ニュースを見る限り、出火の時間が深夜ということもあり工場の人は無事らしく安心したが(後日の検証記事を見る限り、放火の疑いが強かった)、問題は明日のクライアントチェックと、なにより展示会に治具が間に合うかどうかだ。ひとまず施工会社の担当には、至急他の工場を探させ、代理店担当者に報告を行う。

「いやいやいや、そーゆーのはいいから。間に合わないんだったら俺がクライアントに頭さげるからさ、もうちょ」

「本当です。ヤフ○のトップページを見て下さい。」

なんだこのくだり。さっき聞いた気がする。

「…まずいじゃん。これ。そもそも展示会に間に合うの?」

「今、大至急他の工場をあたってますので、状況見え次第ご連絡します。すみませんが、クライアントに明日のチェックが出来なくなった旨だけご報告いただけませんでしょうか。」

「とりあえずクライアントには説明しておくけど、絶対に代りの工場見つけるか、なんでもいいから間に合わせてね。間に合いませんっていう報告は一切受け付けないから。」

「…善処します」

その後、施工会社の必死の折衝で何とか空いてる別の工場を見つけ出し、治具の制作をねじ込無ことができた。クライアントチェックは結局できなかった(現場確認になった)のだが、そもそも、素材見本であったり図面を提出していたためクライアントチェックと言っても形式的なもので、ほぼOKが出るもののはずだったし、仮にその場で大幅な直しを指示されても、現実的に対応は難しい状況だった。

納期はぎりぎりになってしまったが、ひとまず間に合わせることができたため、あまつさえ「俺の剛運もなかなかだな」なんて思っていた当時の自分がうらめしい。この「ぎりぎり間に合った」ということが新しい悲劇をもたらすことになろうとは考えもしなかったのである。

午前2:00「破滅の音」が響いた

展示会の準備は概ね順調に進んでいた。何もなかった床に壁が立ち上がり、サインが設置され、ブースの装飾もある程度終わり、あとは展示する製品を展示什器に設置すれば9割方の準備が整う状態だ。

展示製品は、事前にクライアント側でこの展示会専用にカスタムを行い、スイッチを押すことで動作デモを見ることが出来る仕様になっている。時刻は午前1:50。展示製品はクライアントから会場宛てに全て納品されており、クライアントと代理店は引き揚げ、我々は黙々と展示什器へ例の「治具」をかまして製品の取り付け作業を行っていた。

展示製品は約20個で、クライアントが製造する膨大なプロダクツ群からすればかなり少ない。今回はテーマに沿って展示物を絞り、厳選したものだけを見せていくという方針のためだ。そのほとんどはクライアントの工場で生産されている汎用品なのだが、2点だけ特殊なものがある。

1つはヨーロッパの協力会社へ生産委託を行っているパーツ。

もう1つが、今回の展示に合わせて特別にカスタマイズした試作品だ。

クライアントの担当者からは

「他の製品は壊しても売るほど替えがあるからいいけど。この2つだけは壊さないでね。」

と事前に言われている。…なんだこのフラグは。

展示什器の上に治具で製品を仮留めし、とりあえず今日の作業の目途がついたところで、その音は鳴り響いた。

「カラーン」

全員が見ている目の前で、展示製品が突然治具から外れ床に転げ落ちたのだ。通常展示会ブースの床にはパンチカーペットを敷くのだが、取り付け作業は丁度パンチカーペットと会場のコンクリートの床の境目の場所で行っており、その製品はコンクリート側へと落ちて行った。特殊な構造をしたプラチックの物体。

それは、替えが無いから絶対壊すなと言われていた、あの欧州の舶来品だった。

…まずい。急いで拾い上げて全体をチェックすると、最も恐れていた事態が目の前にあった

「角がチップしてる…」

パッと見は分からないが、よくよく見ると確かにチップしてる。とりあえず床を探すと、奇跡的にチップした2mm大の破片を発見。割れた箇所から離れ落ちたのはこの破片だけで他には無いようだ。断面に破片をあてがってみると、ぴったりとくっつく。

ここで頭の中には3つの選択肢が浮かび上がった。

1.代理店、クライアントに正直に話し、対応策を検討する。

2.接着剤でくっつけ、万が一気づかれたら「はじめからこうなってました」と言う。

3.このままどこかに居なくなる。

どう考えても1以外の選択肢はないのだが、午前1:55、先日の仕込み作業で心身共に疲弊していた私は、もう2か3から選択するしか無いという思いにかられていた。同じく心身共に疲弊しきった施工会社の担当者と対策を協議している中でふとした疑問が沸いた。

しかし、なんで突然治具がはずれて床に転げ落ちたのか?展示什器と製品それぞれに残った分割された治具を見て理由が判明した。

突貫で治具を作ったため、治具の接続面圧着に必要な時間が足りなかったのだ。

治具はアクリルで制作していたのだが、アクリル同士をつなぎ合わせる際、強度が出るまでなじませるため時間を取らなければいけない。今回工場が燃え、別の工場へ急に制作を依頼したためなじませる時間が足りず固まっていなかった。すべてはあの火事から始っていたのだった。

なんとか気持ちを落ち着かせ、明日の代理店への報告と対応策を検討している時

「ガタン」

午前2:00。後から「破滅の音」が響いた。

振り返ると、展示会用に特別にカスタマイズした試作品が床に転げ落ちていた。

無事であってくれという願いはあっさりと覆され、試作品を拾揚げると、同じように治具が圧着されず割れており、本体は角が壊れ3つ位の破片が周囲に落ちている。途端に全身から血の気が引き、疲労と睡眠不足が重なり今にも卒倒しそうだ。周囲の作業者は全員無言で青ざめたままだれも口を開こうとしない。

展示会のオープンは明後日のAMで、まだ明日1日猶予がある。あと1日の間に何とかしなければいけない。しかし打開策は見当たらず、とりあえずその日は解散し、翌朝代理店に事情を説明し沙汰を待つことにした。

そして、クライアントへの説明と謝罪を行い、対応策に話が及んだ時に奇跡が起きた。

欧州舶来製品は、別部署の担当者が社内テスト用に手配していたものが今日会社に到着し、カスタマイズの試作品はほぼ同じ仕様のスペアが試作室にあるとのこと。

はっきり言って、その話を聞いた時には、安堵で泣きそうになってしまいました。その後両製品とも当日中に現場へ持ってきていただき無事イベントの開始をむかえることができた。

こうして、一本の電話から始まった悪夢は大団円で終わりを迎えたかに見えたのだが…。

エピローグ:“炎上“はまだ終わっていなかった

イベントも終わり、この出来事を上司に話していると真剣な顔でお祓いを勧められた。神仏はまったくといっていいほど信じていない私でしたが、一連の出来事にかなり神経をすり減らされていたのと、ちょっとした気分転換になればいいかと思い、オススメの神社をいてみることにしました。

上司が勧めてきたのは、東北にある海岸から少し離れた小島にある某神社でした。ちょっと休みをとって東北への旅行がてら行ってみるかと思い、検索をしてみたら神社が原因不明の火事で数日前に全焼してました。

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