地方自治体が行うイベントやプロモーションはなぜつまらないのか?その理由を解説

地方自治体のイベントは、企画コンペで決定される。

国や地方自治体が主体となって行うイベントやプロモーションは多くの場合、公募型企画提案(プロポーザル)方式で決定されています。

簡単に言うと、「このような目的で、このような内容のイベントやプロモーションを、この予算でやりたいので、皆さんから企画を募集します。プレゼンテーションで審査し、1番成績の良かった案を採用します。」というものになります。

しかし、そこでなぜか「1番成績のいい案を採用してるのにつまらない」という不思議な現象が頻繁に起こるのです。この記事ではそんな、複数社に競争させたあげくに、面白くないイベントが出来てしまうという悲しい構造について解説をしていきたいと思います。

その理由を知るため、まずは応募から受託者の決定までの流れを説明しましょう。

よくあるプロポーザルの流れ

1.はじめに、自治体のwebサイトに公募内容がアップされます。基本的にいつどんな案件が公示されるかは、アップされるまでわからないのですが、自治体の担当部署と普段やり取りをしていると「こんな内容の案件が近く公示されるよ」と教えてもらえます。その他、例年行っている事業であれば、大体どの時期にアップされるか見当がついたりもします。ちなみに、新しい公示案件がアップされた際に通知してくれるサービスなどもあります。

2.次に、アップされた案件の中身をチェックします。ここで「内容」「予算」「スケジュール」などが書かれた仕様書をチェックし、“自社や協力会社のリソースで対応可能か?”そして“勝ち目があるコンペか?”を検討し、行けると踏んだ場合は、参加申し込みを行います。(なお、その自治体に営業拠点があることなど、一定の参加条件を設けていることもあります。)

3.そして、いよいよ企画作業にはいります。この時非常に重要になってくるのが、『仕様書』と『配点表』です。仕様書とはそのイベントやプロモーションに対する要求事項で、配点表は仕様書のどの項目にどの程度配点されるかを示したものになります。この仕様書と配点表をみながら、予算内でいかに要求をクリアできるかを考えてコンテンツを手配したり企画を組み上げていきます。なお、配点表が公開されていない案件もよくあり、それらはどのような審査がなされ採点されたかは不明なまま結果だけが公開されます。

4.なんとか企画書を完成させたら期日までに担当部署に提出を行います。提出には、紙出力で規定部数を納品して、審査員が事前にある程度目を通し、後日改めてプレゼンテーションを行う「事前提出型」の場合と、提出日イコールプレゼンテーション日の「提出即プレゼン型」の2パターンがあります。(新型コロナウイルスによる活動自粛期間中は「電子メールでデータ提出、プレゼン無し」の事も多くありました。)

5.最後にプレゼンテーションを行います。審査員はほとんどの場合3名以上で構成され、その業務に関連する自治体の部署や外郭団体などの偉めの方が担当することが多いです。事業内容にもよりますが、プレゼン10~20分+質疑応答が10~20分というパターンが多数です。全参加者のプレゼンテーション終了後採点ルールに基づき集計を行い、各社の順位が決定します。

6.結果発表は早ければ当日中、遅くとも1~2週間後位までに受託者や落選者に速報でメールや電話で通知がなされ、その後Webページに結果がアップされます。

というのが、公示から受託者決定までのおおまかな流れになります。

コンペで勝つのは、こんな内容の企画

では、実際にどんな審査が行われ、どんな企画が選ばれるのかを説明していきましょう。

まず、自治体が行うイベントなどの事業予算はその地域の納税者の税金と国からの補助金が当てられています。税金を使って事業を行う以上、当然その使い道を明確にし、その自治体の納税者の生活の向上や福祉に寄与するものでなければなりません。ただし、当然予算は限られているため全納税者にそのような恩恵を還元することは難しく、次善前提として「予算内で出来るだけ多数の人間の利益になるもの」を選出していくことになります。

次に採点です。下の架空の配点表(満点/100点)をつかって説明します。

  1. 業務理解:業務の目的・趣旨を理解しているか 15点
  2. 事業内容1:目的達成に向けて効果的な内容となっているか 20点
  3. 事業内容2:ターゲットに対し高い訴求効果が見込めるか 20点
  4. 事業内容3:事業終了後も継続した効果が見込めるか 15点
  5. 実現可能性1:適切なスケジュールになっているか 10点
  6. 実現可能性2:見積もりの算出根拠に妥当性があるか 10点
  7. 実施体制1:業務を遂行できる体制・能力を有しているか 5点
  8. 実施体制2:業務を遂行できる実績を有しているか 5点

審査員はプレゼンテーションを聞き、この配点表を元に採点・集計を行い、参加者の順位を決定します。ここでポイントになるのは、企画の中身がどんなに良くてもこの審査項目のどれかを漏らしていると、その項目の採点は0点(または限りなく低く)になるということです。

そのため、コンペに勝つためには「すべての項目で最低でも及第点を取らなければいけない」という状況が生まれます。

さらに、これはまぁしょうがないのですが、上記配点表の8番に「過去に似たようなことをやった実績があるか」という項目があります。納税者から預かった大切な税金を使って事業を行うわけですから、出来るだけ失敗のリスクは少なくしなければなりません。ですので、過去の実績というのも重要になってきます。例では配点は5点にしてますが、ここが10点とか20点のウエイトを占めるコンペもあります。

そして、審査員についてですが、上で説明したように基本的にはプロポーザルの公示を出している部署や統括・関連部署、関連外郭団体などの偉めの方が選出されます。事業規模にもよりますが少ないと3名くらい、多いと10名近くの審査員の前でプレゼンを行うことになります。

審査員は多角的な視点から企画を検証するという目的もあり、直接その事業に関わらない人間などが選出されることもよくあります。それは当然ですし、むしろウェルカムなことなのですが、中にはプレゼン前に仕様書を読んでおらず事業の内容をそもそも理解していなかったり、質疑応答で意味不明な質問をしてきたりする人間がいます。そのため、企画書はそのような方でも直感的に理解できる内容にしないと、評価点が低くつけられてしまう可能性があります。

なお、プロポーザルにあたって素案を広告会社が事前に書いたり下見積りを作ったりという事はよくあり、そのような場合は事業の経緯を知っている分コンペが多少は有利に進みます。また、特定の広告会社でしか履行不可の完全な「仕込み」(デキレース)なんかもあります。今回はそれは抜きで、ガチコンペの場合の解説をします。

以上をまとめると、プロポーザルで勝つにはこんな企画にする必要があります。

できるだけ多くの人間が参加・体験・接触できるもの

審査項目すべてで及第点を達成できるもの

すべての審査員がわかりやすいもの

そこでさらに勝ちやすいのは、

過去に類似業務実績のある会社

となります。

そうなると、どんな事が起こるでしょうか?

予算の中で出来ることには限りがあり、企画はその中でバランスを見ながら組むことになります。たとえば集客の目玉になるコンテンツに予算を割けば、他のコンテンツは脆弱になり、全体にまんべんなくそれなりのコンテンツを配置れば、どうしても全体がのっぺりしたものになってしまします。

尖った企画を盛り込んで全体にメリハリをつけた方がイベントやプロモーションは面白くなるのですが、そうすると審査項目で及第点をとれなかったり、審査員がついてこれなくなり点数が稼げなくなります。

せっかく企画を出して負けたくはないので、そうなると「置きに行く」コンテンツを配置してとりあえず点数を稼ぐ企画に寄っていってしまいます。特に、一度同様の事業を受託したことのある会社などは、前回の企画を元に一部を改善した「超安パイ」な企画を出してくる傾向が極めて高くなります。通常であればそのような企画は「以前やってるからもっと違うものを出してよ」となりそうなものですが、こと地方自治体のプロポーザルでは『実際の経験を元にした、確実に集客できるコンテンツの改訂版』のような企画は、高い評価の対象になりやすいという歪んだ環境があります。

例えば、これはそんな状況を表したレーダーチャートで、8つの軸は例であげた採点項目です。

チャートの2と3に当たる部分が、「コンテンツの評価軸」です。A社はここで割と攻めた企画を出して満点をとっていますが、見積もりの他、過去に自治体の業務を受託した経験が少なく、体制や類似業務実績で低い点がついてます。対して、前回受託したB社は前回案の更新版(焼き直し)を提出しすべての項目で8割の得点をしており、総合するとB社が総合得点で上回りB社の提案が採用になります。

と、そんな感じで受託者が決まり、結果として誰に向けて作られたのかよく分からない、薄っぺらい、毒にも薬にもならない、欺瞞に満ちたイベントやプロモーションが住民の血税によって生み出されてしまうことがあるのです。

もちろん、自治体が行う全ての案件がこのようなわけではなく、よく考えられたものや限られた予算の中で最大限の結果を出そうとしている、楽しく面白いものも多くありますので、その点は一応お伝えしておきます。